先行掲載分(29th/MAY)2006-05-30 Tue 00:16
Lost Crusade 〜Another Episode〜
#. 00 † Prologue 根雪も消えつつある早春の朝、低い太陽を手のひらで隠した。吐き出した白い息を見て、思わず身震いする。悴(かじか)んだ手で、ポケットから取り出した黒い手袋をはめようとするが、うまくはめられない。仕方なく、歯を使ってはめた。 カンカンカンカン…… 遠くで踏切の音がする。ぼーっと空を眺めていた俺は、つられるように踏切を見た。日に4度しか閉じることのない寂(さび)れた踏切が、静かに動き出している。閉じる意味のない踏切だと常々思っていたのだが、今日は事情が違うらしかった。 そこには、じっと地面を見ながら立ちつくす、黄色い帽子を被った子どもがいた。踏切が閉じきれば、逃げるだろうが、ここは田舎だ。どうせ顔見知りの誰かの子どもなのだろう。子どもを視野に入れながらまた、ぼーっと歩く。 踏切が閉ざされる。だが、子どもは動かない。ただじっ……、と地面を見つめている。……ここにきて、耳が聴こえないのかもしれない、なんてぞっとする考えが過ぎる。面倒だが助けないわけにはいかなかった。 この線路は、まっすぐ伸びたローカル線だった。向こうからも遮蔽物がない分、よく見えているはずだが、油断は生じるものだ。それに厄介なことだが、この踏切の遮断機はゆっくりだった。時間が無い。 「キミ! 早く線路から出るんだ!」 叫びながら駆け寄る。が、距離がありすぎる。走りながら、猛烈な速度で進入してくる電車の姿が確認できた。 けたたましく鳴り響くブレーキ音。電車と踏切の距離を測る。……間に合わない! そして、数m手前で、ゴリッという音とともに、子どもの姿が消えた。 電車は踏切を20mほど超過して停止し、俺の目の前に、内側に何かがこべり付いた帽子が落ちた。 ![]() |
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